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なぜ同じ利回りでも収益が変わるのか? 中級者が押さえる収益構造の読み方

【1棟アパート投資実践戦略シリーズ 第1回/全7回】なぜ同じ利回りでも収益が変わるのか? 中級者が押さえる収益構造の読み方

はじめに

物件資料に「表面利回り8.0%」と書かれていたとき、その数字だけで物件の優劣を判断される方は少ないのではないでしょうか。区分マンションや戸建て投資を経て、1棟アパートを数棟持つ段階に進まれると、「同じ利回りの物件なのに手残りがまるで違う」という経験を何度もされるようになります。

近年は融資環境の引き締めや建築費の高騰が重なり、新築アパートの利回りは低下傾向にあります。そのため、中古1棟物件を正しく選別できるかどうかが、投資成績を直接左右する時代に入ってきました。本連載の第1回では、すべての判断の土台となる「収益構造の読み方」を掘り下げていきます。なぜ同じ利回りでも収益物件としての価値が変わってしまうのか、その正体を数字と一緒に解き明かしていきましょう。

利回りには「4つの顔」があります

結論から申し上げますと、「利回り」という言葉をひとつの数字だけで捉えていると、投資判断の精度を上げるのは少し難しくなります。

実務で扱う利回りには、最低でも4つの種類があります。表面利回り想定利回り現況利回り、そして実質利回りです。それぞれの特徴と違いを、以下のように整理してみました。

利回りの種類計算のベースとなる家賃特徴と注意点
表面利回り年間満室想定の家賃販売図面に載る「最も良く見える数字」
想定利回り空室をすべて埋めた前提の家賃相場より高く設定されているリスクに注意
現況利回り現在のリアルな入居実態の家賃購入時点の本当の稼働状況を映す数字
実質利回り現況実収入から「運営費」を引いた純収益中級者が一番重視すべき、本当の手残り指標

販売図面に載っているのは大半が表面か想定ですが、表面8%の物件が、現況では7.2%、実質では5.8%まで下がってしまうことは珍しくありません。逆に、満室稼働でも家賃が周辺相場より安い物件であれば、表面8%のものが家賃の適正化後に9%超まで伸びる余地を秘めています。同じ「8%」でも、中身はまったく違うのですね。

NOIと運営費で物件の「実力」を裸にする

利回りの数字を見る前に、まずは純営業収益(NOI=Net Operating Income)で物件を見る習慣をつけたいところです。NOIは年間の実収入から運営費を引いた数字であり、その収益物件が持つ「本当の実力」を表してくれます。

運営費の主な内訳には、管理委託料(賃料の3〜5%)、共用部の光熱費、固定資産税・都市計画税(固都税)、火災・地震保険料、原状回復や小修繕費、そして空室による損失などがあります。築年数が経つほど修繕費や空室損の比率が上がりやすくなり、表面利回りと実質利回りの差が開いていきます。地方のRCマンションで表面12%と謳われていた物件が、固都税や空室損、エレベーターの保守費用がかさみ、NOIベース(実質)では8%まで落ちてしまう、といったことは現実に起きています。

ここで意識しておきたいのが、FCR(総収益率=NOI÷総投資額)という指標です。総投資額には、物件価格だけでなく、仲介手数料や登記費用、不動産取得税といった購入諸費用も含めます。物件価格に対する表面利回りではなく、実際に自分が投じた総額に対する純収益を見ることで、はじめて物件同士を同じ土俵で公平に比較できるようになります。

高利回り物件が敬遠される「本当の理由」とは?

利回り12%や15%といった物件を目にすると、多くの投資家の方は反射的に「地方の築古だから、修繕爆弾があったり土地値が出なかったりするのでは……」と身構えてしまうかと思います。実際、その通りのケースも少なくありません。

しかし、こうした物件が敬遠される本質的な理由は、物件の質そのものというよりも、実は「融資が引きにくいこと」にあります。法定耐用年数を超えた木造や軽量鉄骨の物件に、長期の融資を出してくれる金融機関は限られているため、現金で購入するか短期の融資でしか買えず、結果として買い手が絞られてしまいます。買い手が少なくなれば価格は下がりますので、結果として利回り高く表示されることになります。つまり高利回りというのは、物件の純粋な収益力ではなく、流動性の低さ(売りにくさ)を映し出していることが多いのです。

この構造を理解していれば、「高利回り=危険」という思い込みのせいで、競合が少ない優良物件を取りこぼしてしまっていたかもしれない、と気づくことができます。耐用年数オーバーの物件でも融資を出してくれる金融機関を知り、修繕リスクを正しく見極められる投資家にとっては、高利回り市場はむしろ素敵な狙い目になります。

収益構造を決める「買うべき物件」と「見送るべき物件」の対比

分かりやすいように、具体的な2つのケースを比較表にしてみました。

項目【ケース1:買うべき高利回り】【ケース2:見送るべき低利回り】
物件概要地方中核都市・木造築20年・表面11%首都圏近郊・RC築15年・表面7.5%
賃賃需要駅徒歩10分、大学や総合病院などの「核」あり満室家賃が周辺相場より15%も高い
リスク面現況家賃が相場より1割安い(家賃アップ余地)長期入居者が多く退去で家賃下落。大規模修繕未実施
出口と結論土地値が8割あり残債をすぐカバー。「買い」修繕費で実質利回り5%台へ。「見送り」

この2つの例が示しているように、大切なのは利回りの数字そのものではなく、「その数字がこれからも持続するのか」「裏側にどんなコストが隠れているか」を読み解くことなのです。

収益構造を決定づける「3つの軸」

物件の収益構造は、突き詰めると以下の3つの軸で決まります。

  • 1. 家賃の実勢性:現在の家賃が、周辺相場と比べて高いか安いかを見極めます。高ければ将来の下落リスクになりますし、安ければ家賃アップの伸びしろになります。賃貸ポータルサイトで同条件の競合物件を10件は引き、㎡単価で比較してみるのが基本動作です。
  • 2. 稼働の持続性:入居者様の属性や契約形態、入居年数、退去の予兆などを確認します。長期間空室が続いている部屋には、日当たりの悪さや1階の防犯面の不安、使いにくい間取りといった構造的な弱点が潜んでいることが多いので注意が必要です。
  • 3. コスト構造:築年数と構造から、今後発生する修繕費や運営費をどれだけ正確に見積もれるかです。ここを甘く見積もってしまうと、表面の数字は幻になってしまいます。

📌 今回の戦略まとめ

第1回:収益構造編の重要ポイント
  1. 利回りの「4つの顔」を意識する:販売図面の「表面利回り」ではなく、運営費を引いた「実質利回り」を基準に判断を。
  2. NOIとFCRで物件を比較する:実際に投じた購入諸費用を含む総額に対する「純収益」で、物件を同じ土俵に載せる。
  3. 高利回りの本質は流動性の低さ:「高利回り=危険」ではなく、融資戦略と修繕リスクが読めれば競合の少ない狙い目になる。
  4. 家賃の実勢性・稼働・コストの3軸で見る:数字の表面に騙されず、家賃相場や退去リスク、未来のコストを正確に織り込む。

次回・第2回では、この収益構造の上に乗ってくる「評価」についてお話ししていきます。積算評価と収益還元評価のバランスや、金融機関が融資額を決める際にどこを見ているのか、そのロジックを一緒に掘り下げていきましょう。

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