2024年(令和6年)1月1日、日本の相続税・贈与税制度に大きな変革が訪れました。 相続税の計算に影響を与える複数の変更が加えられ、特に生前贈与が相続税の課税対象に加算される期間が従来の「相続開始前3年間」から「7年間」に延長されたことは、従来の相続税対策の常識を根底から覆すものとなっています。
この改正は、単なる税制の微調整ではありません。生前贈与を活用した節税策が増えたことで税負担の公平性を確保する必要性があったことや、親世代の財産を早期に子世代に移転させたいという政府の考えが背景にあり、今後の相続対策のあり方を根本的に見直す必要性を示しています。
本記事では、2024年の税制改正によって何がどう変わったのか、また相続税における「加算」制度の全体像を整理し、新しい税制環境下での効果的な相続対策について詳しく解説いたします。適正な納税と円滑な資産承継を実現するための指針として、ぜひご活用ください。
この記事で分かること
- 2024年相続税制改正の具体的内容
- 7年ルールが相続対策に与える影響
- 相続税の2割加算制度の詳細
- 改正後の効果的な相続対策手法
相続税における「加算」制度の基本理解
相続税における「加算」とは、納税者が本来納めるべき相続税額に加えて課される金額を指し、大きく分けて二つの異なる性質のものが存在します。
加算税(ペナルティ)の種類と税率
一つ目は、申告義務の不履行や誤りに対する「ペナルティ」としての加算税です。これには以下の種類があります
過少申告加算税 申告期限内に提出された申告書に記載された税額が、本来納めるべき税額よりも少なかった場合に課されます。うっかりミスや財産評価の誤りなどが該当し、税率は追加納付税額の10%または15%が一般的です。
無申告加算税 申告期限までに相続税の申告書を提出しなかった場合に課される加算税で、**税率は納付すべき税額の15%または20%**が一般的です。
重加算税 最も重いペナルティとして、納税者が意図的に財産を隠したり、仮装したりして過少申告や無申告を行った場合に課されます。**過少申告の場合は35%、無申告の場合は40%**という高い税率が適用されます。
相続税額の2割加算とは
二つ目は、相続または遺贈によって財産を取得した人が、被相続人の配偶者、父母、子ではない場合に、その相続税額に20%相当額が加算される「相続税額の2割加算」です。
この制度の目的は、相続税の課税を「世代飛ばし」によって回避することを防ぐことにあります。例えば、親から子、そして孫へと順次相続されるべき財産が、子を飛ばして孫に直接相続される場合、本来2回課されるはずの相続税が1回で済んでしまうことになります。2割加算は、このような課税回数の減少を是正し、税負担の公平性を保つための措置です。
2割加算の対象者
- 兄弟姉妹、甥・姪、祖父母
- 代襲相続ではない孫・ひ孫、孫養子
- 遺贈により財産を受け取った人(配偶者・一親等の血族・代襲相続人を除く)
- 内縁関係にあったパートナー、特別縁故者など
2割加算の対象とならない者
- 配偶者
- 父母(直系尊属)
- 子(実子・養子で孫養子を除く)
- 代襲相続人となる孫
相続税額の2割加算の計算方法は、各人の税額控除前の相続税額×0.2となります。
2024年相続税制改正の具体的内容
生前贈与加算期間の延長(3年から7年へ)
2024年(令和6年)1月1日施行の改正により、贈与財産の加算対象期間が3年間から7年間へと延長されました。 この改正は、従来の相続税対策の核心であった暦年贈与の有効性を大幅に制限するものです。
改正前後の比較
- 改正前:相続開始前3年以内の贈与が相続税の課税価格に加算
- 改正後:相続開始前7年以内の贈与が相続税の課税価格に加算
ただし、延長された4年間の贈与額については、合計100万円までは加算対象外となる配慮措置が設けられています。これは事務負担を軽減する観点から設けられたものです。
実際の影響開始時期 実際に影響を受けるのは、2027年1月1日以降に発生する相続からです。2024年1月1日から新たに行う贈与については7年内加算の対象になりますが、2023年12月31日までに行った贈与は改正前の3年ルールのままです。
相続時精算課税制度の大幅見直し
相続時精算課税贈与制度に、令和6年(2024年)1月1日以降の贈与額から、一人年110万円控除し、贈与税申告と加算の対象外となりました。
改正内容の詳細
- 年間110万円の基礎控除を新設
- この基礎控除枠内の贈与は相続税の加算対象から除外
- 贈与税の申告も不要
年間110万円までの贈与であれば、相続時精算課税を選択することで、7年間の加算期間を気にすることなく、確実に相続財産を減らすことが可能になりました。これにより、相続時精算課税制度の利用価値が飛躍的に向上しています。
災害特例の新設
相続時精算課税適用者が贈与により取得した土地または建物が、贈与日から相続税の申告書提出期限までの間に災害によって一定の被害(価額の10%以上)を受けた場合、相続税の課税価格への加算の基礎となる価額を、贈与時の価額から被災価額を控除した残額とすることができる特例が創設されました。
改正が相続対策に与える影響
暦年贈与の戦略変更が必要
7年ルールの導入により、年間110万円の贈与を7年間行った場合、改正前は330万円が加算対象でしたが、改正後は770万円が加算対象となり、そこから100万円の控除が適用される形となります。
これは、従来の「年間110万円を3年以上継続して贈与する」という基本的な相続税対策の有効性が大幅に低下することを意味します。節税のために贈与を開始し、贈与税を回避できたとしても、相続税の課税対象とされてしまう可能性がぐんと上がってしまったのです。
相続時精算課税制度の位置づけ変化
一方で、相続時精算課税制度への年間110万円の基礎控除新設により、この制度の戦略的価値が大きく向上しました。相続時精算課税制度は使い勝手が良くなりましたが、改正前まで行われてきた生前贈与による節税はしにくくなったと評価されています。
従来、相続時精算課税は「大きな金額の一括贈与向け」という位置づけでしたが、改正後は「少額の贈与を継続的に行い、かつ7年ルールを回避したい場合」にも有効な選択肢となりました。
特定目的贈与の重要性増大
教育資金の一括贈与(2026年12月末まで延長)や結婚・子育て資金の一括贈与(2027年3月末まで延長)などの特定目的贈与の非課税措置が延長されたことで、これらの制度の戦略的重要性が増しています。
暦年贈与の効果が制限される中で、特定の目的を持った資産移転に対する税制優遇の活用が、より重要な相続対策となっています。
新制度下での効果的な相続対策
制度選択の最適化
改正後の環境では、暦年課税と相続時精算課税のどちらを選択すべきかの判断がより複雑になりました。以下の要素を総合的に検討する必要があります:
- 贈与者の年齢や健康状態
- 贈与する財産の種類と将来の価値変動予測
- 受贈者の状況
- 相続発生までの予想期間
- 最終的な相続税額のシミュレーション
長期的視点での計画立案
7年ルールの導入により、相続対策はより長期的な視点が必要となりました。贈与者が7年以上長生きしていれば影響なしという側面もあるため、贈与開始時期の戦略的検討が重要です。
2割加算を考慮した受益者選択
遺言書作成や生前贈与計画において、受益者が2割加算の対象となるかどうかを深く検討する必要があります。特に、孫や甥・姪など、2割加算の対象となりうる人物への財産移転では、税負担とメリットを総合的にシミュレーションすることが求められます。
生命保険金の受取人指定についても、非課税枠のメリットが2割加算によって相殺される可能性を考慮し、慎重な判断が必要です。
専門家との連携強化
税制改正により、相続税の計算はより複雑になり、個々の状況によって最適な対策は大きく異なるようになりました。誤った申告は、意図しない高額な加算税や延滞税を招く可能性があります。
令和4事務年度における相続税の実地調査では、申告漏れとみなされた件数7,036件のうち、重加算税の対象となった件数は1,043件であり、約15%の申告漏れが重加算税の対象となっています。このような状況を避けるためにも、相続税に精通した税理士や弁護士といった専門家への早期相談が不可欠です。
実務上の注意点
適用時期の正確な理解
改正の適用時期を正確に理解することが重要です。例えば、生前贈与加算期間の延長は令和6年1月1日以後の贈与に係る相続税について適用されるため、7年分フルで加算されるのは令和13年(2031年)相続発生からとなります。
贈与履歴の適切な管理
7年間という長期間の贈与履歴が相続税に影響するため、贈与契約書の作成や贈与の事実を明確にする記録の保持がより重要になります。
定期的な見直しの必要性
税制改正や家族状況の変化、財産状況の変動に応じて、定期的に相続対策を見直すことが必要です。一度決めた方針が永続的に最適とは限りません。
まとめ
2024年の相続税制改正は、従来の相続税対策の常識を大きく変える画期的な変更でした。生前贈与加算期間の7年延長により暦年贈与の効果は制限される一方で、相続時精算課税制度への基礎控除新設により新たな選択肢が生まれています。
相続税における「加算」制度は、申告義務違反に対するペナルティとしての加算税と、血縁関係や世代飛ばしに対する2割加算の二つの側面を持ちます。これらの制度を正確に理解し、適切に対応することが、過度な税負担を回避し、円滑な資産承継を実現する鍵となります。
新しい税制環境下では、単純な暦年贈与に頼るのではなく、相続時精算課税制度の活用、特定目的贈与の利用、長期的視点での計画立案など、より高度で戦略的なアプローチが求められます。また、2割加算の対象となる受益者への配慮も重要な検討事項です。
相続税の計算は非常に複雑であり、個々の状況によって最適な対策は大きく異なります。このような変動の激しい税制環境において、専門家への早期相談と継続的な見直しが、適正な納税と効果的な相続対策実現のために不可欠です。
適切な相続対策は一朝一夕には実現できません。今回の改正内容を踏まえ、ご家族の状況に応じた最適な方針を専門家とともに検討していただければと存じます。皆様の円滑な資産承継の一助となれば幸いです。
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